トプカプ宮殿で「集史」を探す
ついにトルコ旅行最後の日になってしまった。
ホテルには半地下のレストランがあり、そこで朝ご飯を食べ、トプカプ宮殿へ。
トプカプ宮殿は、メフメト2世〜アブデュルメジト1世までが暮らした宮殿。トプは大砲、カプは門を意味するが、実際「トプカプ宮殿」と呼ばれるようになったのは、19~20世紀になってからだという。
強い光、濃い影。
シナンの建てたハレムは印象的だったが、やはりモスクの方が強いな、と感じた。
ハレムの女性は外出できないので、綺麗なフレスコ画がたくさんある。これを見て心を慰めて、ということのようだ。
窓枠の造形の美しさ。
宮殿からの金角湾をのぞむ景色は素晴らしかった。
この左下の部分はカフェだけれど、元は処刑場だったそうな……。
宝物の展示コーナーはあまりにも混みすぎていたので足早に通り過ぎた。
宝物にまつわるエピソードは面白いものがたくさんあるので(ペルシャはアフシャール町のナーディル・シャーに献上するために作り、渡そうと出発したらナディル・シャーが臣下に殺されたためトルコのものになったエメラルドの短剣……とか)ゆっくり見れるに越したことはないのだが、いかんせん個人的には「趣味悪い……」と感じるものも多い。(もちろん素晴らしいものもある)
さて、目指すは図書館。トプカプ宮殿の図書館には、憧れの「集史」の写本が所蔵されているのだ。
「集史」とは、イル・ハン朝(チンギス・ハンの孫フレグの西方遠征によって13世紀に成立したモンゴル系国家)の7代目の君主ガザン・ハンの命によって、宰相ラシード・ウッディーンを中心に編纂された歴史書だ。
これはモンゴル帝国の歴史を知るうえでも、イラン・イスラーム世界を知るうえでも、もう極めて、すっごく、とんでもなく、めちゃくちゃに、貴重な文献なのだ。
人類史上最大の歴史書と言っても差し支えないこの本を……絶対に見たい……絶対に……と思ってくまなく見たのですが、展示されていませんでした……。
でもムハンマド関連の本をたくさん見れたので良かった。イスラーム美術は本当に美しい。
最後にシナンの建築本を買ってしまった。
アラバスタバザールでお土産のハマムタオルなどを買いつつ、一度ホテルに戻って汗を流す。
もう一度、あの美味しいキョフテの店でスープとキョフテを食べる。やっぱりこれが一番美味しい。
イスタンブールのトラムで痴漢に合う
さて、この後新市街に行くために混雑しているトラムに乗ったのだが……トルコ旅行中最大の事件はここで起きた。なんと痴漢に合ったのだ。
わたしは全く肌を露出していなかった。全身真っ黒(マキシワンピース+羽織るものも黒)で、スカーフを頭にすっぽり巻いていたので、一緒にいた夫と連れだとは見なされず、一人でいるムスリマだと思われたのではないか。
むんずと尻を揉まれたので、びっくりしたし、いやがっても(体をどかそうとしても)執拗に揉まれる。
外国で痴漢に合うとは思っていなかったので驚きで声が出ず、なんとか(混雑のため少し離れてしまっていた)夫に目線で訴えたところ、夫が犯人を蹴っ飛ばして大声でGo to police? と怒ってくれた。
犯人はようやく行為をやめ、次の次の駅くらいで降りていった。
正直、怖かった。その後はしばらく呆然としていたが、落ち着いてくると、本当は警察まで引きずって行った方がよかったのだろうか? とか、でも駅は無人だし警察もどこにあるか分からないし……とか、色々考えてしまった。
写真は痴漢にあって意気消沈しているわたし。たまたまブレているのがなんとも心情を反映している感じ……。
この可愛らしい電車はカラキョイ駅とテュネル広場駅を結んでいるテュネルという地下鉄。この2駅の距離は600メートル弱で、乗車時間も約3分ほどしかない、超ミニマムな地下鉄。
新市街イスティクラール通りでお買い物
気を取り直して、新市街イスティクラール通りで、お買い物。
古本屋さんで古地図を買う。アラビア語など読めやしないのに、ミーハーなのでついうっかり……。
スカーフの店ipekを探す。
2回も通り過ぎて、ようやく見つけた。店員さんたちは皆親切で、良いお買い物ができた。
おしゃれっぽいカフェで休憩し、ショッピングモールを見物、そしてタクシム駅から電車に乗ってさらに巨大なショッピングモールを見に行く。
大きくて楽しかったが、モダンデザインの家具やインテリア製品などは皆日本で見るのと同じようなデザインで、 つまらなかった。
アタテュルクはチャイセットのデザインになっちゃうくらい普通に人気がある。日本でそんな政治家は思い当たらない。
ホシュチャカ、イスタンブール
疲れたのでタクシーでホテルに戻り、荷物をピックアップ。
フレンドリーなホテルマンとさようならを言い合う。彼は日本語を喋りたがり、わたしはトルコ語を喋りたがるので、別れの挨拶は「サヨナラ〜(彼)」「ホシュチャカ〜(わたし)」となった。
タクシーの運転手さんも、空港で降りる時はすごくいい笑顔を見せてくれた。
テシェキュレ〜、ホシュチャカ〜と言ってさようなら。運転手さんは「ギュレギュレ(見送る側の人が言う「さようなら」。直訳すると「笑って笑って」)」と言って、握手をしてくれた。
相変わらずひどく無愛想で「怒ってるの?」という雰囲気のトルコ航空のCAさんに囲まれながら、東京へ。
最後の機内食。
ああ、帰りたくない。でも東京も好き。
旅の終わりはいつもこうだ。日常への郷愁と非日常への恋慕が入り交じる。
異国では本当に毎秒毎分が新しいものとの出会いだから、インプットの量があまりにも膨大すぎて、大抵頭も心もまったく整理できないまま、身体だけ日常へと強制送還される。
このトルコ旅行は特にそうだった。
聴いたもの見たもの触れたもの嗅いだもの味わったもの、何も咀嚼できないまま、一路東京へと。
ただいま、東京。
そしてわたしたちは、西新宿で念願の寿司を食べた。